ある秋の夜、信夫と彼の友人たちは、一緒にキャンプをするために山へ向かった。
彼らは仲の良いグループで、毎年この時期には大自然の中で友人たちとの時間を楽しむことが恒例行事だった。
しかし、今年は少し様子が違った。
彼らの会話が弾む中、ふと山の中腹にある古びた神社の話が持ち上がった。
「神社には光に導かれて、今もあそこに居る霊がいるって噂だよ」と、大輝が言った。
仲間たちは笑いながらその話を流したが、信夫は何か気になっていた。
彼は最近、職場でのストレスや人間関係に悩まされており、何かこの山で心の重荷を解放できるような気がした。
この神社の伝説が本当なら、そこに行くことがひとつの救いになるかもしれないと感じた。
夜が深まるにつれ、彼らは焚き火を囲みながら楽しい時間を過ごしたが、信夫はどうしても神社のことが頭を離れなかった。
「ちょっと、あの神社に行ってみたい」という言葉に、友人たちは最初は乗り気ではなかったが、最終的には彼の熱意に押され、一緒に行くことになった。
彼らは懐中電灯を手に持ち、暗闇の中を進んだ。
途中、周囲の冷たい空気が一層肌に感じられ、風が木々を揺らす音だけが響いていた。
途中、皆は不安になりながらも、信夫は気を強く持った。
「大丈夫、少しだけ見てみよう」と何度も自分に言い聞かせた。
神社に到着すると、そこには年季の入った鳥居があった。
月明かりの下、古びた社が静かに佇んでいる。
信夫が一歩踏み出すと、何か光が彼の目の前に煌めいた。
小さな光の玉がふわりと浮かび上がり、彼に向かって移動してくる。
友人たちもそれに気付き、皆は息を呑んだ。
「光、あれ、見える?」と虎彦が言った。
光の玉はゆっくりと神社の中に消えていった。
その瞬間、信夫の中に強い好奇心が湧き上がった。
「あの光を追いかけよう」と言って、彼は一歩足を踏み出した。
「待って、信夫!」と友人たちが叫んだが、彼は振り返らずに光を追いかけ始めた。
その瞬間、心の中で彼が抱えていた滅びゆくような孤独感が癒されるように思えた。
彼は光の後を追いかけて、神社の中に入った。
しかし、そこは想像以上に暗く、静寂が支配していた。
信夫は懐中電灯を照らし続けたが、仲間たちの声は遠いところで響いているだけで、まるで彼に届かないようだった。
彼は不安になり始めた。
「皆、どこにいるんだ?」と叫んだが、返事はなかった。
ふと、信夫の前にその光が戻ってきた。
今度は少し大きくなり、心の奥底から呼びかけるような存在感を放っている。
彼はその光に魅了され、気づいた時には自分が神社の深い闇の中に引き込まれていることに気がついた。
そして、光が消えた瞬間、目の前には霊の姿が現れた。
「お前はここで何を求めているのか?」その声は響き渡り、信夫は言葉を失った。
彼は心の中で抱えていた孤独感や、不安、そして滅びゆく日常が一気に押し寄せてきた。
霊の目は彼の心の奥深くを見透かしているようで、言いようのない恐怖に襲われた。
急に振り返ると、彼の友人たちの姿があった。
彼らは神社の入り口で冷や汗をかきながら待っていた。
しかし、彼らが信夫の名前を叫んでいる声はまるで遠い過去のように感じられ、彼はその場に立ち尽くしてしまった。
実体のない繋がりに引き裂かれるような感覚があり、彼は恐れを抱きながらも霊に近づこうとした。
すると、霊がふと笑い声をあげた。
「あなたたちの仲、滅びゆく運命を見せてあげよう」と囁いた。
その瞬間、信夫の目の前に彼の未来が映し出されるような光景が広がった。
友人たちとの関係が次第に希薄になり、彼が一人で歩む道が暗闇に覆われていく様子が見えた。
信夫は恐怖に駆られ、何とか振り返って逃げようとしたが、身体が動かない。
仲間たちの声が次第に大きくなり、彼を懸命に呼び寄せようとしていた。
少年たちの心の絆が、彼の心をさらに強く壊していく。
光が消えるにつれ、彼の存在も薄れていくように感じた。
信夫は、もはや自分の運命を取り戻すことはできないのだと悟った。
ようやく、彼の身体が動き出した。
友人たちの方へと駆け出すと、彼は神社を飛び出した。
振り返ることは出来なかった。
仲間たちは彼を囲み、安心した顔で彼を見つめていた。
しかし、その顔には微かに薄らいだ光が宿っていた。
信夫は友人たちとの絆が、滅びゆく危険にさらされていたことを理解した。
彼はその晩、仲間たちとの関係を大切にすることを心に誓った。
しかし、信夫の心の奥には、那由他のように光が消えていった夜の恐怖が影を潜めていた。
彼は今も時折、あの神社のことを思い出し、光に導かれてみるのが最善なのか、問いかけている。