秋の深まる頃、村の外れにある古い洞窟が人々の間で噂されていた。
その洞窟には、「宮」と呼ばれる神聖な場所が隠されているという伝承があり、特に村の師匠たちから語り継がれていた。
その師とは、山田和久という名の老僧であった。
和久は、洞窟の奥深くに隠されている神秘的な力を信じ、何度も探検に出かけていた。
ある日、和久は弟子の健太を連れ、再びその洞窟に足を運ぶことに決めた。
二人は、村の教えを受け継ぎ、洞窟の中にある「宮」を見つけることで、師匠としての名誉を得ようとしていた。
深い洞窟の中に進むと、ひんやりとした空気が二人を包み込み、薄暗い空間の中で、かすかに響く水滴の音が不気味に耳に残った。
進むにつれ、洞窟の壁には古い文字が彫られているのを見つけた。
「割」と「還」という二つの言葉が目を引いた。
和久はその文字に興味を持ち、「これは何かの儀式に関わるものかもしれん」と呟いた。
その瞬間、洞窟の空気がぬるま湯のように変化した。
健太は背筋が寒くなるのを感じ、何か異様なものを感じ取った。
「師匠、ここを離れましょう。何かおかしいです。」健太は不安を抱え、早く帰ることを提案した。
しかし、和久は「大丈夫だ。私が教えられたことをここで実証する必要があるんじゃ」と言い、先に進んで行った。
あまりにも強い意志を持つ和久を見て、健太はついて行くしかなかった。
ついに二人は「宮」と呼ばれる神聖な空間にたどり着いた。
そこには、奇妙な祭壇があり、周囲には小さな石で作られた像が取り囲んでいた。
和久はその場で静かに祈りを捧げ、「この宮の力をあなたに感じさせてほしい」と声に出した。
すると、突然、洞窟の空気が重くなり、周囲の石像が微かに揺れ始めた。
健太は目を見開き、「師匠、何か起こっています!」と叫んだが、和久はその場から動かず、祈り続けた。
その瞬間、洞窟の壁が崩れ始め、割れた石から不気味な光が放たれた。
「還れ…還れ…」という囁きが耳元に聞こえた。
健太は恐怖を感じ、後ずさりしようとしたが、すでに動くことができなかった。
和久は光に囲まれ、まるで何かに引き寄せられているように見えた。
彼の顔には安堵の表情が浮かんでいたが、それを見ていた健太は恐怖におののいていた。
その時、和久がついに口を開いた。
「何かが私を呼んでいる。私はここで終わる。しかし、私の知識はお前に残るはずだ。」と言った。
次の瞬間、和久の体が光に飲み込まれ、彼の姿が消えてしまった。
健太は恐怖から逃げ出し、必死に洞窟を駆け抜けた。
その道中、耳元では「還れ…還れ…」の声が何度も響き渡り、彼の足は止まることができなかった。
洞窟を抜け出し、ようやく外の世界に戻ったとき、健太は振り返った。
洞窟は静まり返っており、まるで何事もなかったかのようだった。
村に戻った健太には、和久の教えが心に残っていた。
彼は、和久が還るために選んだ道を理解し、自らも師匠の道を歩む決意を固めた。
和久の知識を受け継ぎ、これから先、自分の弟子たちに教えていくのであった。
しかし、洞窟で交わされた「割」と「還」の言葉を忘れることはできなかった。
どこかに、あの不気味な声が響き続けているような気がしてならなかった。