裏の世界には、昼間は見過ごされるような小さな商店街が存在した。
古ぼけた店や、立ち寄る者の少ない飲食店が並ぶこの場所は、昼間は静まり返っていたが、夜になると異なる顔を見せる。
薄暗さの中、自らの意思でこの界隈に足を踏み入れる者たちを迎えるかのように、いくつかの店から微弱な光が漏れ出していた。
その商店街の片隅に、何年も営業しているという噂の「いれずみ屋」があった。
店主の老齢の女性は、人々の噂に耳を傾けているようで、自らの店について語ることはほとんどなかった。
しかし、幾つかの噂が流れていた。
「その店で入れ墨を入れてもらった者は、いつの間にか消えてしまう」というものである。
ある晩、好奇心を抱いた学生の健一は、友人とともにその商店街に足を運んだ。
彼は「いれずみ屋」のドアを開け、店内に踏み込んだ。
そこは、ありふれた入れ墨屋のように見えたが、妙に異様な気配が漂っていた。
壁には、過去にここで入れ墨を施された者たちの写真が所狭しと飾られていた。
彼らの表情は交差しており、喜びと苦悩とが混じり合っていた。
その時、老齢の女性が健一たちに視線を向けた。
「あなたたち、入れ墨をお求めか?」と、低い声で言った。
健一と友人は驚いたが、好奇心から一歩踏み出した。
「どんな入れ墨がありますか?」と尋ねると、彼女は緩やかな微笑を浮かべ、「私が選んだ光を、あなたたちに授けよう」と応じた。
その言葉に引き寄せられ、友人はこの機会を逃すまいとお願いをした。
「私にでも、その光を…」言葉を続ける前に、女性は不気味な笑みを浮かべながら、手をかざした。
その瞬間、部屋が揺れ、光が青白く放たれた。
光は次第に彼らの体を包み込み、そこに身を置く者すべてを照らしていく。
手のひらに感じるこの光には、温もりと同時に寒気が少し混じっていた。
次の瞬間、何かが変わった。
健一はその光に飲み込まれるように感じ、小さな声が耳元でささやいた。
そこには、どこかで見たような人の声があり、「私と一緒に光に満ちた世界を探しに行こう」と誘っているのが聞こえた。
この声は、過去の自分自身の懐かしさを感じさせるものでもあった。
混乱する健一たちの眼前に、様々な光景が映し出される。
気がつくと、商店街全体が変わり果て、色とりどりの光がほのかに舞っていた。
ただ、そこには「いれずみ屋」の影だけが色を失っていた。
その時、健一の友人が「あれを見ろ!私たちを見ている人がいる!」と声を上げた。
彼の目を引いたのは、光の中に立つ一人の影だった。
その影は、かつての「いれずみ屋」で入れ墨を施された者たちの一人であり、虚ろな目をしたその姿に、彼らは恐怖を覚えた。
「助けて…」という声が聞こえ、瞬時に健一は逃げ出そうとしたが、体が動かなかった。
「いれずみ屋」の女性の声が再び響く。
「あなたたちはこの光に惹かれてしまったの。だが覚えておいて、光はいつか消える。それが私の持つ力だから」その言葉を聞いて、健一はさらに恐怖を感じた。
周囲は次第に暗くなり、騒がしかった光がまるで追いかけてくるかのように思えた。
「いれzuみ屋」から逃げ出した彼らは、日常の世界に戻ったかと思ったが、彼の友人はどこかへ消えてしまった。
後に残された健一は、日常の生活を送る中で、忘れえぬ光の恐怖に苛まれ「いれずみ屋」のことを考えないように努めた。
だが、時折夢の中にその後ろ姿が現れ、「一緒に光の世界へ」という声が響くのであった。
光は、彼を永久に離さない存在となるのだ。