昔、町外れにある古びた工場。
そこはかつて賑わっていた場所だったが、今では錆びた鉄の塊が無惨に散らばり、誰も近づかない廃墟と化していた。
その工場には奇妙な噂があった。
人々は、この場所に来た者は皆、何かしらの「断」たれたものを持ち帰るというのだ。
ある日、大学に通う佐藤健一は、友人たちと共に肝試しをしようとその工場に向かうことにした。
仲間の中には、好奇心旺盛な友人、田中美咲もいた。
美咲は普段から心霊現象や怪談が好きで、何か面白いものが見つかるのではないかと期待に胸を膨らませていた。
二人は仲間と共に、夕暮れ時に工場の入り口に到着した。
鉄の扉は錆びついていて、かすかにきしむ音を立てながら開いた。
中は薄暗く、錆と埃にまみれた機械や部品が散乱していた。
仲間たちは興奮して笑い声を上げながら奥へと進んでいく。
健一と美咲は少し離れた場所で、何か異変を感じていた。
周囲は静まり返り、不気味な空気が漂っている。
突然、健一の耳に何かの声が聞こえた。
「おいで……おいで……」不気味なささやきだった。
彼は周囲を見回したが、誰もいない。
ふと、美咲が何かに気づいたように立ち止まった。
「健一、見て!」美咲が手で指し示す先には、錆びた機械の影から漂う微かな光があった。
それは、ただの光ではない。
何かの「み」だと直感した。
美咲はその光に引き寄せられるように近づいて行く。
「待って、美咲!」健一は急いで彼女の後を追った。
だが、美咲はその光を見つめ、まるで夢中になっているかのようだった。
健一が駆け寄ると、美咲はその光に手を伸ばした。
「触ってみたい……」
「いや、やめて!」必死に止めようとしたが、もう遅かった。
美咲の手が光に触れると、周囲の空気が一瞬凍りつき、驚くべきことが起きた。
彼女の体が光に吸い込まれるように消えてしまったのだ。
健一は驚愕し、慌てて周囲を見回した。
仲間たちも驚き、混乱が広がった。
誰もが言葉を失っている中、健一の心には一つの思いが沸き起こった。
「美咲を助けなければならない。」なぜ彼女が消えたのか、その理由を解明する必要があった。
暗闇の中、健一はその光の元へ近づいた。
心の中で美咲の名前を呼び続ける。
「美咲、どこにいる……?」すると、再び耳を澄ますと、さっきの声が聞こえてきた。
「断たれた者よ、来い……」
その声が何度も響く中、健一は不安と恐怖に包まれた。
しかし、彼は絶対に諦めることはできなかった。
彼女を取り戻すためには、この恐ろしい場所の秘密を知る必要があるのだ。
一歩一歩近づくにつれ、健一の目の前には美咲の姿があった。
彼女は少しずつ影のように薄れて行き、その表情はどこか哀しげだった。
「助けて……」彼女の声が響くが、彼女の身に何が起こったのか理解できなかった。
「美咲、私は君を助ける!」健一は叫んだ。
その瞬間、工場全体が揺れ動き、光が彼の体を包んだ。
次の瞬間、彼は意識を失い、真っ暗な空間に放り込まれた。
気がつくと、健一は工場の入り口に何事もなかったかのように立っていた。
だが、美咲の姿はどこにもなかった。
仲間たちも彼を心配して探していたが、彼らは美咲の失踪を知らなかった。
健一はその光景を見て、自分が何を失ったのか理解した。
美咲は、もう戻らない。
工場の噂は本当だった。
何かを失った者は、永遠にその場所に囚われる。
健一の心には、美咲の笑顔が残り続けたが、彼はもうその笑顔を見ることはできなかった。
彼女は、錆びた工場の中で、断たれた存在となってしまったのだ。