深い森に囲まれた小さな村、護村。
そこには、長い間人々が語り継いできた不気味な伝説があった。
村の外れにある廃墟と化した古い屋敷。
その家にはかつて、護明という男が住んでいたと言われている。
護明は村の中でも評判の優しい男で、特に子供たちに愛されていた。
しかし、彼の優しさは村人たちにとって、次第に恐ろしいものへと変わっていった。
護明は、ある日突然村を離れ、深い森の中へと消えてしまった。
誰も彼がどこへ行ったのか分からなかった。
しかし、明け方ごろに村人たちの元に、不気味な音が聞こえるようになった。
「ギギギ」と木が軋む音。
それは、廃屋から聞こえてくるものだった。
夜になると、特にその音は大きくなり、まるで誰かが廃屋の中でうなり声をあげているかのようだった。
そこで村人たちは、護明の行方を捜し始めた。
彼の失踪は疑念を呼び、次第に村の人々の間に不安と恐怖が広がっていった。
ある晩、特に音が不気味に響く中、一人の男性、佐藤が廃屋に入ることを決心した。
彼は、護明が何らかの事情でこの屋敷に戻ってきたのではないかと思ったからだ。
廃屋の中に入った佐藤は、薄暗い部屋の中で一瞬息を飲んだ。
そこには古びた家具が散乱し、蜘蛛の巣が無造作に張り巡らされていた。
しかし、その部屋の奥から、再び「ギギギ」という音が聞こえてきた。
勇気を振り絞り、彼はその音の正体を確かめるために進んでいった。
部屋の奥に近づくにつれて、音はどんどん大きくなっていった。
ついに彼は、その声の出どころである小さな扉を見つけた。
息を呑みながら扉を開けると、そこには護明がいた。
彼は恐ろしい表情を浮かべ、目は虚ろだった。
佐藤は恐怖に駆られ、思わず後ずさりした。
護明は、彼に向かって何も言わず、ただ「償」という言葉を口ずさんでいるように見えた。
その瞬間、佐藤は理解した。
護明は村を離れた理由があったのだ。
彼は、自らの優しさを薄めていく村人たちに、何かを償うために身を捧げたのかもしれない。
彼の存在が、屋敷の中で軋む音の正体だった。
佐藤は背筋を凍らせ、急いで屋敷から逃げ出した。
次の日、村人たちは佐藤の話を聞き、護明に関する不気味な音がただの噂ではなかったことを知った。
それ以来、村では護明のことが語り継がれることなく、廃屋は誰も近づかぬ場所となった。
しかし、夜が訪れると、またどこからともなく「ギギギ」という音が聞こえてくるのだという。
村人たちは言う。
「護明はまだ、彼の償いを続けているのだ」と。