夏の終わり、田舎の小さな村に住む子供たちは、毎日川で遊んでいた。
特に信二という男の子は、友達と一緒にいる時間が大好きで、笑顔を絶やさなかった。
しかし、彼の心の奥には、いつの日か「本当の友達」が欲しいという強い願いがあった。
ある日、村の外れにある古い神社で、「いつもそばにいてくれる友達を探す」おまじないがあると聞いた信二は、興味を持った。
彼は友達と一緒にその神社へ行くことに決めた。
神社には長い階段があった。
その上には、朽ちかけた鳥居と神社の社が静かに立っていた。
信二は少し不安を覚えたが、彼の好奇心が勝った。
「おまじないをかけたら、友達ができるのかな?」信二はそう考えながら、友達と一緒に社の前で手を合わせた。
声に出さないおまじないの言葉を唱え、彼は目を閉じた。
その瞬間、ひんやりとした風が吹き、肌寒さが感じられた。
友達たちも少し身震いしたようだったが、あくまでも遊びだと思い込むことにした。
数日後、信二はいつも通り学校へ行くと、見知らぬ少年が彼に近づいてきた。
彼は優しそうな笑顔をしていて、まるで待ち望んでいた友達のように感じた。
少年の名前は勇太で、信二と同じ年齢だった。
彼は返事をする前に、すでに強く引き寄せられたように勇太と一緒に遊び始めた。
その日から、信二と勇太は毎日一緒に過ごし、特に川で遊ぶのが大好きだった。
しかし、日に日に信二は不安を覚えるようになった。
勇太はどこか冷たく感じ、彼の存在はまるで自分が求めていた「友達」とは違うように思えた。
普段の友達たちと遊ぶことが少なくなり、そのかわりに勇太との時間が圧倒的に増えていった。
ある晩、信二は夢の中で勇太と遊んでいると、不気味な声が耳元で囁いた。
「本当の友達なんて、偽りの存在に過ぎないんだ」と。
その言葉が耳から離れず、信二は目が覚めた。
彼の心の中に何かが引っかかり、勇太のことを考えていると、この夢が何を意味していたのかようやく理解した。
彼は何度も勇太の顔を思い出し、その笑顔と共に何か不穏な気配を感じ取った。
次の日、信二は勇太と約束していた。
しかし、彼は約束の時間に家を出ることができなかった。
家の中には、背筋が凍るような静けさが漂っていた。
勇太が本当に存在するのか、また彼のことが「偽の友達」であるのか、信二は疑い始めた。
彼は何度も勇太との出会いを思い返し、不安が膨れ上がる。
そして、「本当に友達が欲しい」と願うその思いが、夢の中の声と重なるように、彼を苦しめた。
その後の数日、信二は勇太に会うことを避けるようになった。
彼の心の中に潜む恐怖は次第に大きくなり、ついには勇太の姿を思い出すだけで恐れおののくようになった。
そしてついに、ある夜、信二は全ての真実を知ることになった。
夢の中で、再び不気味な声が聞こえた。
「友達は永遠にそばにいる。それはあなたの選択によるものだ」と。
翌朝、信二は勇太がどんな存在なのかを確かめるために、神社へ向かった。
そこで彼は、朽ち果てた鳥居の影に古びた木札を見つけた。
その中には「偽りの友」とだけ書かれていた。
その瞬間、彼は全てを理解した。
勇太は信二を引き寄せるために現れた、何かの存在だった。
彼は友達のように振る舞っていたが、実は信二に「永遠の孤独」を強いる存在だった。
信二は慌ててその場から逃げ出し、神社を後にした。
後ろを振り返ると、朽ちた社の奥で、勇太が笑顔で立っていた。
彼は「ずっと一緒にいよう」と呟くように、消えない影のように信二を見つめていた。
信二は全力でその場を離れ、もう二度と勇太には会わないことを心に誓った。
彼の心に新たに芽生えた思いは、孤独でも構わない、偽りの友に支配されるくらいなら、真実の孤独を選ぶということだった。