倉の奥には、古びた物が山積みになっていた。
そこは町はずれにある廃屋の倉庫で、江藤はその倉を片付けるために集まった。
彼は親から引き継いだこの家を売ることに決めており、そのために備品を整理する必要があった。
江藤はいつもは明るい性格だったが、倉に一歩足を踏み入れると、どこか不気味な空気が漂っていた。
「これだけの物を整理するのは大変だな…」彼は独り言をつぶやきながら、埃を被った段ボールを開けた。
古い写真や日用品、そして見知らぬ道具などが詰まっていた。
突然、彼は一つの小さなガラス玉に目を止めた。
それはまるで彼を引き寄せるように煌めいていて、手に取ると、不思議な感覚があった。
その瞬間、背筋が寒くなり、彼は何かに見られているような感覚に襲われた。
「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、倉の奥へと進んだ。
しかし、その度に視線を感じるような思いが続き、心臓が高鳴っていた。
倉の壁には古い絵画が掛かっており、その一つに目がとまった。
それは不気味な顔をした女性の肖像だった。
彼女の目がじっと江藤を見つめているように感じられ、恐怖を覚えた。
振り返ると、空間が暗くなり、心が不安でいっぱいになった。
彼は思わず後退り、倉の出口へと向かった。
しかし、足元で何かがひっかかり、彼は転んでしまった。
背後からは低い囁き声が聞こえ、「まだ行かないで」と告げられた。
彼の心臓が激しく打ち、一瞬言葉を失った。
恐怖を抱えながらも振り返ると、目の前にはあの女性の影があった。
「お前が来るのを待っていた」とその影は言った。
江藤は目を逸らそうとしたが、その目、彼女の目には何か引き込まれるような力があった。
「出て行きたいなら、まずは私のことを知る必要がある」と続けられた。
動揺しながらも、江藤にはその言葉がどことなく真実である気がした。
彼は倉で直面している現象が、ただの幻覚ではないことを理解し始めていた。
彼女はただの絵画ではなく、その倉の歴史そのものであり、彼から何かを伝えようとしているのだと思った。
「何を知ればいいんだ?」と問いかけると、「私がかつてここで過ごした日々を思い出してほしい」と答えた。
その瞬間、江藤は一枚の昔の写真を思い出した。
それは彼の祖母とその昔の友人たちが倉で遊んでいる姿だった。
そこで彼女の姿を捉えた女性がいたのだ。
「そうか、君はお祖母ちゃんの…」彼は掴んだものを放り出すように呟いた。
しかし、目の前の影は微笑んで見えた。
「私の存在は、過去の一部としてお前と繋がっている。忘れられた仲間を思い出してほしいのだ」と続けた。
心を整理する時間を持ち、江藤は彼女の目をじっと見返した。
その大量の孤独が彼の心に影を落としていた。
倉の存在は、ただ物を無視したのではなく、忘れ去られた思い出の住処であった。
彼はそれに気づいた瞬間、倉がただの空間ではなく、過去を知るための場所であることを悟った。
「済まない、私が覚えていたことを忘れてしまった」と江藤は言った。
すると、女性の影がふわりと消え、その場に温かな光が漂った。
彼女の声は「思い出すことが全てをさらけ出すのだ」と言い残して去っていく。
その後、江藤は廃屋の倉を片付けながら、過去の思いを全うしようと決意した。
孤独から解放され、新たな道を歩むために。
選ぶことは、ただ去ることではなく、かつての想いを忘れないことだと彼は気づいた。
そして彼は目の前の目に向き合い、自分の過去を受け入れることにした。