倉の奥深く、ほこりにまみれた空間が広がっていた。
誰も訪れないこの場所は、家族の忘れ去られた思い出と、時折響くささやきで満たされていた。
倉の持ち主である佐藤健二は、物置として使われているその空間を何度も整理しようと試みたが、いつも途中でうんざりしてしまった。
そして、家の中にある形見や使わなくなった物たちが、自然と倉に運び込まれていく。
ある日、健二は倉の中に古い箱を見つけた。
箱の中には、さまざまな雑貨や書類が押し込まれた状態で眠っていた。
特に目を引いたのは、真っ赤に染まった布だった。
ぐっと引き寄せてみると、布の裏には小さな血の跡がついていた。
驚いた健二は、思わずその布を手放してしまった。
ふと、他の物も見慣れた調度品ではなく、昔の家族からの遺品だということを思い出した。
その夜、健二は深い眠りに落ちた。
しかし、夢の中で彼は、かつての家族と再会することができた。
彼らは笑顔で語り合っていたが、その中に一人、異様な雰囲気を纏った女性が混じっていた。
彼女は目を赤く輝かせ、無表情で彼を見つめた。
まるで、深い恨みを抱いているかのようだった。
目が覚めると、健二は身体がだるく、心に重たいものを感じた。
そして、その日から毎晩、同じ女性の夢を見るようになった。
彼女は夜ごと、無言で彼のそばに立ち続け、次第にその心の奥に入り込んでいく。
健二はその姿に、どこか懐かしさを感じていたが、同時に不気味な恐怖も覚えていた。
ある晩、夢の中で女性は健二に近づき、薄い声で囁いた。
「私の血を返せ。」その言葉は頭の中に響き、何かが弾けるように感じた。
健二は目を覚ますと、恐怖に駆られたまま気分を立て直そうと倉に向かった。
その日は特別に、家族の古い品々を整理することにした。
すると、倉の奥から再びあの赤い布が姿を現した。
何が写っているのか分からない、混沌とした感情に駆られ、健二はその布を手に取ることにした。
すると、あの女性の姿が目の前に輪郭を持って現れた。
彼女は微笑み、そして血のような涙を流しながら、「私を消さないで」と囁いた瞬間、健二は心が揺れ動いた。
彼はその瞬間、女性の存在が家族の歴史と深く結びついていることに気づいた。
彼女は過去に何か大きな悲劇を抱えていたのだ。
自分がその記憶を思い出すことで、女性を解放できるのだと考え、健二は倉での整理を続けた。
だが、日を追うごとに倉の中の空気は重く、視界は曇っていった。
そして、ついには猛々しい怒りが健二の心に芽生えた。
女性の存在が自分を呪っているかのように感じられた。
それはまさに彼が夢で見ていた女性が強く願っていたこと、彼の血を消し去る力を持っているように思えた。
健二はついに女性の呪いから逃げ出そうと、倉を何度も行き来した。
しかし、倉に足を踏み入れるたび、彼の中に潜む恐れは膨れ上がっていく。
ついに限界が訪れた日、倉に再び忍び込んだ時、彼は心に浮かぶ恐怖に抵抗できなくなり、幼少期の悲しい出来事が蘇った。
女性の存在が徐々に自分を消し去っているかのように感じた。
倉の中で、人々の記憶が消えていく。
健二は逃げ場を失い、ただ叫び続けた。
呪いは彼の心を貪り、次第に健二も倉に留まり続けることになった。
この倉は、彼の存在を消し去る場所となり、今でも彼の苦しみが生き続けている。
彼はその呪いに取り付かれ、夢の中で女性と再び微笑み合い、ただ一つの血の記憶が消えることなくその奥深くに沈んでいる。