黒田翔太は、大学生であり、医学生として日々人体の不思議を学んでいた。
彼には一つの心配事があった。
友人から聞かされていた「体内冒険」という悪口のような噂が気になって仕方なかった。
それは、特定の条件下で誰かがその人体の中に入り込むことができるという、まるでファンタジーのような話だ。
ある日、翔太は講義中にその話を耳にした。
講師が「自己意識が消える現象」について話し、実際の症例を紹介した。
それは一見すると奇妙で、現実味がないように思えたが、興味が湧いた翔太はその後、自分自身の体について探求することを決意した。
彼は友人の佐藤と山本を誘い、人体に関する実験を行うことにした。
彼らは人体の構造や神経についての実験ができるスタジオを借り、その場で様々な手法を試すことにした。
豪華な機器を使って、体の中の神秘を追い求めた結果、彼らは自らの体を冒険する計画を実行に移すことを決めた。
翔太が準備を進める中、何気なく佐藤が体内冒険になるとどうなるかを問いかけた。
「もし、体の中に入ってしまったら、元に戻れなくなってしまうのではないか?」その言葉が翔太の心に引っかかり、不安が広がったが、無邪気な好奇心が彼をその恐れから引き離した。
実験の日、彼らは一体どこからスタートするかを決めるため顔を見合わせた。
翔太は意を決して、体の一部に触れるための装置におそるおそる手を伸ばし、彼らは実験を開始した。
体の中に“入る”という行為が現実のものとなると、瞬間的な不安感が彼の中で広がった。
その果てしない空間で、翔太たちは己の存在を感じることができた。
彼の血流の中を泳ぎ回っているかのような感覚があった。
しかし、彼らの周囲は次第に暗くなり、気づけば彼の意識が遠のいていくのを感じていた。
何が起こっているのか、彼らは理解できなかった。
異常なことが起きている自覚があったが、どうすることもできなかった。
その時、翔太は他の二人から遠く離れてしまっていることに気づいた。
「佐藤!山本!」と叫んでも、返事は返ってこなかった。
彼は体の中を漂う白い光の筋から意識を失った。
光の中で自らの存在が薄まる感覚に紛れて、翔太は悲鳴を上げることができた。
体内冒険が現実になったものの、今度はただの冒険ではなく、彼にとっての孤独な試練が始まったのだ。
彼は体内に迷い込んでしまい、正体不明の不安に押しつぶされそうになった。
重い感覚が身体を包み込み、色を失った世界で翔太は必死に元の場所に戻ろうとした。
しかし、どう戯れようとも、正しい出口は見つからなかった。
彼の心に焦りが募る。
突如、何者かの気配を感じた。
翔太の心拍が急速に高まり、誰かが彼に近づいてくるのを感じた。
視界が開けた先には、山本の姿が見えた。
「翔太!お前、どこにいるんだ!」と叫ぶ声が響く。
しかし、その声は彼に届くことはなかった。
翔太はその存在を感じながらも、目に見えない何かが彼を押し出しているのをはっきりと感じた。
まるで、彼自身の体が彼を拒絶しているかのようだった。
彼は何かに奪われつつあり、この体から脱け出ることは運命の成り行きに任せるしかなかった。
呼びかけがやがて静まり、彼は再び孤独に苛まれることとなった。
体内冒険が、彼を消し去ろうとしているのだ。
かつて「些細な好奇心」として楽しんでいたことが、今や恐怖の象徴となっていた。
翔太の意識は徐々に薄れ、彼の存在そのものが失われる直前、彼は最後に思った。
「こうして自ら消えるなんて、あの噂が本当だったとは…」
彼が完全に消え去った後、佐藤と山本は翔太の姿を探し続けていた。
彼らは彼の声を聞くことができず、ただ声の幻影が静かに消えゆく音だけが響いていた。
翔太は体の奥深くに閉じ込められたまま、永遠に誰かの体の中で冒険し続けるのであった。