静かな村の外れに、かつて栄華を誇ったとされる神社があった。
その神社は長い間放置され、周囲の木々に囲まれ、今ではひっそりとした存在と化していた。
多くの村人はその神社を恐れ、近づくことを避けていたが、一人の青年、健太だけはその真実に興味を持っていた。
健太は、村の伝説として語られる「亡の道」が気になっていた。
それは神社の裏手に続く細い小道で、迷い込んだ者は必ず「亡き者」に出会い、帰ることができなくなるという恐ろしい噂があった。
彼の友人たちはその話を嘲笑していたが、健太はどうしても確かめたくなった。
ある秋の夜、月明かりが神社を照らす中、健太は決心し、その神社へと向かった。
神社の扉を開くと、あたりは重たい静寂に包まれ、異様な緊張感が漂っていた。
薄暗い境内を進むと、後ろから微かな声が聞こえた。
「健太……こっちに来て……」
振り返ると、誰もいない。
しかし、その声は彼の名前を呼び続け、誘惑するかのように響いていた。
気が付けば、健太は神社の裏手へと足を進め、小道の入り口にたどり着いた。
そこには、朽ち果てた看板が立っていて、読めないほどに文字が消えかけていた。
彼は小道に踏み込むと、風が彼の頬を撫でるように吹き抜け、「亡の道」を体験することになった。
不気味な静けさが続き、視界には一切の動きがなかった。
歩を進めるにつれ、周囲が徐々に薄暗く、まるで時間が止まったかのように感じた。
するとまた、後ろから「あの時は楽しかったよね」と声がした。
その声には見覚えがあった。
彼の亡き父の声だ。
父は健太が子供の頃、いつも一緒に遊び、無邪気な笑い声を響かせていた。
その声に導かれるように健太は進んでしまった。
しかし、すぐに自分の選択を悔いるべき状況に気づいた。
道の両側に立つ木々は、まるで彼を監視しているかのように不気味に揺れ、冷たい霧が辺りを覆い始めた。
ふと、健太の視界に一つの影が映った。
それは、彼の父の姿だった。
だが、目の前に立っているのは彼が記憶している父の温かい笑顔とは正反対の、どこか冷たく、憎しみを抱えた瞳だった。
「健太、私を忘れないでくれ。君のためなら、私は何でもしたのだ」と父は言った。
その言葉は彼にとって、重たすぎた。
彼は恐れおののき、逃げたくなったが、後ろを振り返ることができなかった。
何かが彼を引き寄せ続けていた。
どこに行っても影が追いかけてくる。
だが、健太は必死に走った。
声が混ざり合い、あらゆる方向から彼を呼ぶ。
彼はついに、心の底から別れたかった父と再会することの恐ろしさに気づいてしまった。
「健太、君は私を必要としているはずだ」と,再び父の声が耳を打った。
この瞬間、彼は全てを理解した。
亡の道は、彼が忘れたくても忘れられない存在を再び思い起こさせ、彼をその空間に縛り付けていたのだ。
彼はもう引き返すことはできない。
涙が止まらない。
彼は亡き者との繋がりを完全に絶つことができず、ここで合掌することを選ぶしかなかった。
父との約束、それを守れなかったことを恨みつつ、永遠の時が流れるこの小道に吸い込まれていった。
小道のどこかで、彼の記憶が徐々に消え去り、村人に語り継がれる新たな神話の一部となるのだった。