夜も更けたある日、町外れにある井戸の近くに、友人たちと共に集まった一人の女子大生、真由美がいた。
彼女たちは肝試しをしようと、その古びた井戸を訪れた。
井は時折、近所の人々が不気味がる場所で、多くの怪談が残されている。
真由美はその話に興味を持ち、仲間を誘ったのだった。
「井戸には、落ちた人の霊が出るって言うよ」と、一緒に来たユウリが言った。
真由美は自信満々に、「そんなの、ただの噂よ。実際には何もないって」と笑ったが、内心は少し緊張していた。
井戸の周りは暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。
みんなが井の周りに集まると、真由美は「誰か入ってみたら?」と提案した。
仲間たちはそれに乗って、順番に井戸を覗き込むことにした。
最初に覗き込んだのは、友人の大輝だった。
彼は興味津々で、「おい、何も見えないぞ」と笑った。
次にユウリが覗き込むと、急に顔が青ざめた。
「真由美、やっぱりやめようよ…なんかおかしい気がする」と言った。
真由美は「何が?」と尋ねたが、ユウリはその言葉に答えず、深い息をついた。
その後、順番が回ってきた真由美は、不安に駆られながらも、井戸の淵に寄りかかった。
真由美は覗き込むと、突然、そこに誰もいぬはずの井の底で、微かな声が聞こえてきた。
「助けて…」それは、まるで怨念のように響いた。
その瞬間、彼女の心臓が激しく鼓動し始めた。
「今、何か聞こえた?」真由美が振り返ると、友人たちが口々に否定する。
「何も聞こえないよ、ただの風だろう」と、みんなは笑っていたが、真由美は自分の耳を信じたかった。
しばらくして、誰かが「じゃあ、井戸に何かを投げ込もう」と提案した。
真由美は反対したが、他の友人たちは好奇心に勝てず、次々と石を井に投げ込んでいった。
すると、異常なことが起こった。
井の底から、低い唸り声が響き渡ったのだ。
「ほら、いまのは絶対におかしい!」真由美が叫ぶと、友人たちは不安になり、少しずつ後退した。
ユウリが「これ以上はやめよう!」と叫んだが、その時、井戸の縁から焦点の合わない目がじっと彼女を見つめているのに気付いた。
ひんやりとした感触がユウリの背中を伝わり、彼女は恐怖で振り返った。
そこには、自分たちが投げ込んだ石が井戸の周りに並べられていた。
それはまるで誰かが意図的に設置したかのように整然としていた。
恐怖にかられ、真由美たちは一斉にその場から逃げ出した。
暗い夜道を走る中、真由美だけが一人はりついてしまった。
「私、あの声を助けなきゃ…」と、自分の中の何かがささやいた。
その直後、真由美の目の前に何かが現れた。
それは、井戸の底から這い上がってくる形のない影であり、その目は真由美を見つめていた。
「助けて…助けて…」その言葉が鮮明に響く。
真由美は恐怖で立ち尽くし、ただその影を見つめることしかできなかった。
最終的に真由美は、自分の親友たちを守るために逃げた。
しかし、その影は彼女の心に住み着いた。
次の日、真由美は周囲から不安に駆られ、どんどん孤立していった。
彼女は井戸のことを誰にも話せず、静かに心を閉ざすようになった。
それから数週間後、彼女の友人たちが真由美の様子を心配し、再度井戸を訪れることにした。
しかし、そこには何もなかった。
彼女の姿を求めて何時間も探したが、真由美の行方はわからなかった。
井戸の底には、ただ静寂が残っていた。
その後、町の人々は、あの井戸はかつて真由美が訪れた井戸であり、彼女の姿を消した場所だと語り継いだ。
そして、真由美の叫び声は、井の底から今も微かに聞こえているという噂が立ち始めた。