「井戸の底からの呼び声」

彼女の名前は香織。
彼女が暮らす村には、昔から「悪い手」と呼ばれる現象が存在していた。
村の中心にある古い神社の近くには、長い間見捨てられた井戸がある。
この井戸には、不気味な言い伝えがあった。
井戸に手を入れた者は、必ず悪い運命をたどるというのだ。

ある日、香織は友人と共に神社を訪れた。
夜の闇が村を包み込む中、彼女たちは何気なく井戸の近くで話をしていた。
香織はその話を聞いていても、井戸に手を伸ばすなどということは考えもしなかった。
しかし、友人の一人、純子が興味本位で井戸に手を入れてみると言い出した。
香織は必死に止めようとしたが、純子は笑いながら手を井戸の中に入れた。

その瞬間、井戸から冷たい風が吹き上がり、香織は不気味な感覚を覚えた。
純子はすぐに手を引き戻し、「なんにもなかったよ」と笑ったが、香織の心には不安が広がっていた。
帰り道、香織は純子の様子がどこかおかしいことに気づいた。
彼女の手の指先は、一瞬青白く光ったかと思うと、次第に黒ずんでいった。

次の日、村では何人かの住人が姿を消す事件が報告された。
その中には純子の家族も含まれていた。
香織は何かが起こっていると確信し、純子と連絡を取ろうとしたが、彼女からは連絡がないままだった。
心配になった香織は、再び神社に向かうことを決意した。

神社に着くと、周囲は不気味な静寂に包まれていた。
香織は井戸の前に立ち、思い出したように手を伸ばした。
その瞬間、彼女は井戸の底に何かが見えたような気がした。
彼女は恐怖を感じつつも、じっと見つめているうちに、そこに純子の姿が浮かび上がる夢のような光景に驚いた。
純子は手を井戸の底に伸ばし、自分の運命を嘆いていた。

香織はどうにかして純子を救おうと、勇気を振り絞り、再び手を井戸の中に入れた。
手が冷たい水に触れた瞬間、悪い手の存在を感じた。
恐怖が全身を襲ってきたが、香織は純子の声が聞こえた。
「香織、私を助けて!」その声は弱々しくも力強く響いた。

香織は必死に思いを込めて、純子の手を掴むことに成功した。
すると、井戸の底から悪しき力が解き放たれ、手が彼女の手を引き剥がそうとした。
香織は力を振り絞り、「絶対に離さない!」と叫んだ。
彼女は心の中で、純子の友情や大切な思い出を思い起こし、その思いが悪い力を打ち破る助けになると信じた。

ふと、周囲が明るくなり、香織の目の前に光が現れた。
その光は悪い手を追い払うかのように、鋭い刃となって迫ってきた。
香織は純子と一緒にその光に包まれ、その瞬間、井戸の底から強い力が彼女たちを引き上げた。

井戸の外に出ると、二人は無事だったが、周囲に変わった様子が見られた。
村の人々は無事で、純子の家族も戻ってきた。
悪い手の噂は村の中で消えていったが、香織はこの出来事を忘れることはなかった。
彼女は手を井戸に入れたことで、自分達の運命がどう変わるかを知ったのだった。

夜が明け、香織は新たな決断を下す。
悪に立ち向かう勇気こそが、最も大切なものであることを知ったからこそ。
人々は手を離さず、共に生きていくことができると信じ、彼女たちは次の世代へと友情の物語を伝えていくのであった。

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