深い山の中に、村人たちが忌み嫌う井戸があった。
その井戸は、長い間誰も近づくことがなく、周囲は枯れた木々と藪に覆われていた。
人々の間では、その井戸には霊が住んでいて、不幸になる者が現れるという噂が広まっていた。
村では、その井戸に近づくことを禁じられていた。
ある日のこと、大学生の和夫は友人たちと一緒に山へハイキングに出かけた。
彼は噂を聞いたことがあったが、怖いもの見たさから興味を抱いていた。
友人の直美、健、沙織と共に、井戸を探すことを決めた。
「村の人たち、ただの迷信だよ」と和夫は言った。
「一度確かめてみよう。」
直美は不安そうに顔を曇らせた。
「本当にやめた方がいいよ。何かあったらどうするの?」
しかし和夫は意地になり、「そんなの大丈夫だって。俺が行くから、みんなも一緒に来てよ」と言い放った。
結局、友人たちは和夫の思いに押され、井戸へ向かうことになった。
深い藪をかき分けて進むと、次第に奇妙な静けさが周りを包むようになった。
鳥の声も虫の音も聞こえず、まるで世界が一瞬消え失せたかのようだ。
彼らは不安を感じながらも、井戸を見つけることができた。
その井戸は、確かに古びていて、周りは苔むしていた。
水はほとんど底が見えないほど濁っていて、あたりは不気味な空気が漂っていた。
「ほら、やっぱり何もないじゃん」と和夫は言ったが、彼の心には不安が広がっていた。
沙織が井戸の縁に目を近づけると、突然、井戸から冷たい風が吹き上げた。
「何かいる…」
その言葉が彼女の口から出た瞬間、井戸の底で微かな声が響いた。
「助けて…」
直美は恐怖で全身が固まり、「聞こえた?誰かの声だよ!」と叫んだが、和夫はその声に魅了されたように井戸へと近づいていった。
「お前、何をやっているんだ!」健が止めようとしたが、和夫は無視して声の正体を確かめに行った。
「助けて…私を…助けて…」その声はさらに強くなった。
和夫は思わず、「何があったんだ!」と叫んだが、井戸の底からの答えはなかった。
ただ、冷たく、深い静寂が広がるだけだった。
その瞬間、突然周囲の空気が変わり、直美は恐怖を感じて叫んだ。
「戻ろう、お願い!ここには何かいる!」
しかし和夫は止まらなかった。
彼は井戸の縁に手をかけて、ついには足を乗せた。
彼の目の前には、ほのかにうっすらとした姿が浮かび上がった。
長い髪を持つ女性の霊が、彼をじっと見つめていた。
彼女は悲しげな顔をしており、まるで和夫に助けを求めているようだった。
「お前は…誰だ?」和夫は恐怖と好奇心が入り混じった気持ちで尋ねた。
「私を…井戸から出して…お願い…」その瞬間、和夫の心に何かが響いた。
それは彼の心の奥底に繋がる感情だった。
しかし、彼の周りの友人たちは恐怖に囚われ、震え上がっていた。
沙織が叫んだ。
「和夫、お願い、戻ってきて!」
その声が和夫を現実に引き戻した。
彼は自分が何をしているのかを理解した。
彼は背後にいる友人たちの恐怖を見つめ、思わず井戸から後ろに下がった。
しかし、その瞬間、井戸の底からは強い引き寄せる力が働いた。
和夫はそのまま。
井戸の中に引きずり込まれそうになった。
「助けて!」和夫は叫んだ。
友人たちは驚いたように彼を引き寄せようとしたが、力が足りなかった。
井戸の底からは悲鳴が響き、やがて静かな空間に戻った。
その後、直美たちの手によって和夫は無事に引き上げられた。
彼は井戸の近くから離れることを決意し、仲間たちと共に山を下りた。
後ろを振り返ると、井戸の底から現れた女性の霊が、無惨な笑顔で彼を見送っていた。
友人たちと共に村へ戻った後、和夫はしばらくの間、それが悪夢であったかのように感じた。
しかし、忘れられない強烈な感情と恐怖は、彼の心に深く刻まれた。
井戸の霊は、彼に自分を助けてはくれなかったが、彼の心に一生の教訓を残したのだった。