春の夜、月明かりの下、静寂に包まれた一本道があった。
この道は、過去に多くの人々が行き交ったが、今では誰も通らない。
何故なら、この道には不気味な噂が立っていたからだ。
道の両脇には、古びた木々が立ち並び、長い間人々に無視されてきたことを物語っている。
ある晩、村の若者である健太は、友人たちと共に帰宅する途中、この道を通ることにした。
みんなで大笑いしながら歩いていたが、途中で突然、彼らの中の一人、少し真面目な性格の翔が立ち止まった。
「やめよう。この道は危ないって噂されている場所だよ。」
「何言ってるんだ、ただの道じゃないか」と、他の友人たちは笑って次の話題に進んだが、翔の表情は真剣そのものだった。
彼はこの道にまつわる何かを感じ取っていた。
道を進むうちに、健太たちは次第に不気味な気配に気付くこととなった。
風が途切れ、周辺の音が一切消えた。
まるで周囲が彼らを拒絶しているかのようだった。
友人たちはその異常さに気づき、不安が広がっていった。
しばらくして、突然、道の真ん中にひとりの女性の霊が現れた。
彼女は、長い髪の毛と白い着物を纏い、ただ立ち尽くしている。
彼女の目は悲しみに満ち、冷たい風が彼女の周りを覆っていた。
「私の名は美咲。ここでの生死の狭間でずっと穢れた争いを見てきた。」と、彼女は低い声でつぶやいた。
「争い?」健太が驚いて尋ねた。
美咲はうなずき、続ける。
「私が生きていた頃、ここで村の人々が争いを繰り広げた。その嫉妬と憎しみが無数の人々の生命を奪ったの。そして、私もその争いに巻き込まれ、命を失った。私の無念は、私の魂をここに縛りつけている。」
彼女の言葉に、健太たちは恐怖で動けなくなった。
美咲は続ける。
「あなたたちも、争いを望む心を持っているのではないか。誰かを蹴落としてでも、自分が優位に立ちたい、そう思っているのではないか?」
「そんなことはない!」翔が恐れながら声を大にした。
「私たちはただ、友達と一緒にいたいだけです!」
美咲は彼の言葉に目を細め、ふっと微笑んだ。
「そう、その思いを大切にするのが大事だ。人は争っても得るものは少ない。私のように争いで失ったものの大きさを決して忘れないで。」
その瞬間、道の周囲が微かに明るくなり、冷たい風が彼らの背後から吹き抜けていった。
美咲の姿がかすんでいき、彼女の声が風に乗って消えていった。
「あなたたちの心の中の愛と友情を守って。」
彼女の言葉が耳に残る中、健太たちは急いでその場を離れることにした。
走りながら、彼らは互いに顔を見合わせ、何とも言えない気持ちを抱えていた。
その夜以降、健太たちは美咲の言葉を深く考えるようになった。
争いを避け、大切な人との絆を育むことが、これからの人生において最も価値のあることだと気づいたのだ。
そして、春の夜の道には、今も美咲の霊が漂い続けている。
彼女は解放されることはないが、若者たちの心の中に、彼女の教訓は生き続けている。
争いの恐ろしさを知った彼らは、これからも互いを思いやる心を抱えながら生きていくのだろう。