「争いの神社」

昔、ある山村に静まり返った神社があった。
その神社には、古い伝説が語り継がれていた。
村人たちの間で語られるその伝説は、「争いの神」と呼ばれる神々が、過去に起きた激しい争いのせいで、怨霊となってこの神社に封じ込められたというものだった。
この神社を訪れる者は、その怨霊を鎮めるための祭りを行わなければならないとされ、怠った者には呪いが降りかかると言われていた。

そんなある日、村に若いカップルが引っ越してきた。
彼の名は健太、彼女の名は美奈。
二人は新しい生活に胸を躍らせていたが、村の人々は彼らに神社のことを警告した。
しかし、若い二人はその話を笑い飛ばし、「そんな古い迷信は信じない」と言って、神社を訪れることにした。

夜が訪れ、月明かりの中、二人は神社の前に立っていた。
「これが噂の神社か…」と健太が呟くと、美奈は少し興味を持ちながらも冷やかすように笑った。
「神社に祈ってみようよ。何も起きるわけないし。」

二人は仲良く手をつなぎ、神社の中に入った。
中は薄暗く、神棚にかさぶたのような血痕が残っているのを見て、少し不気味に思った。
しかし、そんなこと気にせず、美奈が「ここで何か願い事をしてみよう」と言った瞬間、健太の目の前に不気味な影が現れた。

「やめろ…ここは争いの神の領域だ…」影が低い声でささやくと、健太と美奈は驚いて後ずさりした。
何が起きたのか理解できない彼らは、恐怖心に駆られ、その場から逃げ立ち去った。
しかし、逃げれば逃げるほど、その影は二人を追いかけてくるようだった。

村に戻った二人は、村人たちにその出来事を話したが、村人たちは心配そうに言った。
「もし怨霊を怒らせたら大変なことになる。祭りを行わなければ、彼らは再び現れるだろう。」

その日の夜、奇妙な夢を見ることになった。
夢の中で、彼らは神社に戻り、影がどんどん近づいてくる。
そこに現れたのはかつての争いで命を落とした霊たち。
その霊たちは、健太と美奈に争いを持ちかけるのだ。
「お前たちの魂を賭けて、この争いに参加しろ。」と。

目を覚ました健太は、恐怖で胸がいっぱいになった。
「美奈、私たちはもう逃げられないかもしれない…。」

後日、村の祭りの日が来た。
村人たちは神社で神を祀り、争いの神々を鎮めるための儀式を行った。
健太と美奈も参加したが、そこで感じた圧迫感は尋常ではなかった。
神社の中では、霊たちの怒りが渦巻いているように思えた。

儀式が進む中、健太は美奈に叫んだ。
「お願い、私たちの魂を守るために、何かしないと…!」

その瞬間、神社の空気が変わり、影たちが再び顕れた。
「争いの種が未だに根強い。このままでは二人とも私たちのものになる。」と、影たちは告げた。

絶望的な状況の中、健太は自らを犠牲にして美奈を守ろうと決心した。
「美奈、俺の魂を捧げるから、君は逃げてくれ!」と叫んだ。
美奈は涙ながらに拒んだが、影はますます近づいてきた。

そして、一瞬の静寂の後、影は健太を引き寄せ、彼の魂を奪っていった。
美奈はすぐに逃げ出し、神社を後にしたが、健太がどこへ消えたのかは知るすべがなかった。

村を離れた美奈は、健太との思い出を胸に秘め、二度と神社には足を運ぶことはなかった。
しかし、あの夜の出来事は彼女の心に深く刻まれ、彼女は一生争いの神々を恐れることとなる。

今でもその神社では、毎年祭りの季節になると、健太の名を叫ぶ影たちの声が聞こえると噂されている。
そして、新たな犠牲者を求めて、怨霊たちは今も待ち続けている。

タイトルとURLをコピーしました