ある静かな村、その名は北の村。
この村には古くから「乗り物の姫」と呼ばれる伝説が伝わっていた。
この姫は、何かを救うためにやってきた霊とされており、人々は彼女に助けを求めて、毎年行われる祭りで祈りを捧げていた。
ある年、祭りの日に村にやってきたのは、真田という若者だった。
彼は東京から転校生として村に住むことになり、祭りの雰囲気を楽しむつもりで参加した。
真田は村の人々に興味を抱き、彼らの話を聞きながら祭りを楽しんでいた。
しかし、祭りの最中、彼の目に留まったのは、村はずれの古びた神社だった。
神社の前に立つと、何か吸い寄せられるように中へ足を踏み入れた。
神社には、伝説の「乗り物の姫」の像が飾られている。
彼はその美しさに見惚れ、どうしても姫に話しかけたくなった。
「あなたが助けを必要としているのなら、どうか知らせてください。」真田はそう呟いた。
その夜、真田が家に帰ると、何か不気味な気配を感じていた。
部屋の薄暗さの中、窓の外に白い影が見えた。
彼は驚いて窓を開けると、月明かりの中に光る白衣を着た女性が立っていた。
彼女は、まさに「乗り物の姫」そのものだった。
「助けてほしいの」と姫が囁く。
真田は、彼女の声に引き寄せられ、思わず頷いた。
その瞬間、彼は意識を失った。
気が付くと、不思議な世界へと迷い込んでいた。
周りには薄暗い霧が立ちこめ、どこまでも続く道が見える。
彼は、自分が姫のために何か特別な役割を果たさなければならないと直感した。
「この道を進めば、あなたを救う者が現れる」と前方から声が響いた。
驚きと共に進んで行く真田。
道を進むにつれて、彼は徐々に過去の記憶が甦ってきた。
村の人々の笑顔、祭りの歌、そして自分が東京から忘れられた故郷へ戻ることができた日々。
だが、反面その記憶は、彼を苦しめる要因でもあった。
真田が最初の岐路にたどり着くと、二つの道が分かれていた。
一つは光り輝く道、もう一つは暗闇に包まれた道。
彼は迷うことなく暗い道を選んだ。
彼の選択は、自らの心の深いところにある後悔、痛みを受け止めるためのものであった。
進むにつれて、姫の声が再び響いた。
「あなたは選ばれた者よ。まだ救えないものがいる。でも、そのためには一つの扉を開かなければならない。あなたがまして、自らの封印を解かねば。」
やがて真田は、扉の前にたどり着いた。
それは、古い木の扉で、強い力で封じられているようだった。
「どうすれば良いのか?」と問う真田に、姫は「あなたの心の闇と向き合い、その力を解放して。」と答えた。
真田は深呼吸し、記憶を辿り始めた。
忘れたいと思っていた、仲間との別れや村を離れたこと。
そして、いつも自分にかけられていた期待と圧力。
その全てを背負うことで、扉がゆっくりと開いていくのを感じた。
扉から漏れ出した光は、彼を包み込み、真田はようやく自分自身を救い出すことができた。
彼は消えゆく世界の中で、姫の力を借りて、少しでも人々を助けようと決心した。
姫の微笑みが彼を照らす中、彼は全ての過去の痛みを受け入れ、現実の世界に戻ると、村の人々の元へ向かい再び祭りに参加した。
彼はもう孤独ではない。
心の中には「乗り物の姫」がいる。
彼女は、彼に力を与え、これからの人生を照らしてくれるだろう。
彼はその日以来、村を救うための新たな道を歩み始めた。