「並木道の呪い」

ある秋の日、晴雄は友人たちと一緒に並木道を歩いていた。
色鮮やかな紅葉が散り、木々の間からは薄曇りの空が顔を覗かせている。
彼らは休日を楽しむために、ちょっとした散策を計画していたのだが、そこには誰もが気にしない不気味な噂があった。

「ここは、昔、悪いことをした人が呪われた場所だって聞いたことある?」と、友人の健二が言った。
晴雄はそれを聞いて少し不安になった。
けれど、好奇心が勝り、その話を続けることにした。
せっかくの休日に、悪い雰囲気を感じたくない。
そう思いながらも、彼はその話がどうしても気になっていた。

「昔、この道である男が、他人に対してひどい仕打ちをしたんだ。その後、その男は行方不明になったと言われている。そして、彼の怨念がこの場所に宿っているってさ。」健二の声は冗談のように聞こえたが、彼の周りにいる友人たちは皆、薄ら寒さを感じているようだった。

その言葉がまだ晴雄の頭に残っている時、ふと気づくと彼の横にいた桃子が姿を消していた。
みんなで歩いていたはずなのに、どうして突然いなくなったのか、晴雄は不安を覚えた。
「桃子!どこにいるの?」彼は大声で叫んだが、返事はなかった。
友人たちも同じように不安を募らせ、散策を中止して桃子を探すことにした。

時が経つにつれ、辺りは薄暗くなり始め、不気味な静けさが漂い始めた。
晴雄と友人たちは、焦りを感じながら並木道を何度も行き来したが、桃子の姿は見つからなかった。
明らかに何かが間違っている。
彼はそのまま進むのをためらい、恐怖に駆られた。
何か、彼らを見守っている存在が感じられた。

「このままではいけない。もう一度、元の場所に戻ろう。」と言ったのは、静かに観察していた友人の康介だった。
その言葉に他の友人たちも頷き、一旦元の場所へ戻ることにした。

元の木の下に戻り、彼らはささやかに桃子の名前を呼び続けた。
しばらくの沈黙の後、突然周囲に冷たい風が吹き抜けた。
風に乗って、友人たちに視覚的な変化が訪れた。
果樹になっている木々が、少しずつ顔を上げ、ひしめき合いながら洞窟のような異空間に変わっていくのが見えたのだ。

混乱の中、ふと背後にある鳥居を見つけた晴雄は、無意識にその方向へ向かっていった。
初めはその光景に引き寄せられたと思ったが、その鳥居の先に待っているものに恐怖を覚え、足を止めた。

その瞬間、鳥居の奥から桃子が現れた。
しかし、彼女の表情はいつもと違っていた。
目は虚ろで、口元には冷ややかな笑みが浮かんでいた。
晴雄は彼女に向かって声をかけるが、彼女の口から出た言葉は意外だった。

「私を、ここに連れてきてくれたのね。」彼女の声は柔らかいが、どこか不気味であった。

その言葉を聞いた瞬間、晴雄は心の奥にある恐怖が急に湧き上がってきた。
桃子が何かの呪いにかかっているのではないかと思った。
彼の周りには、友人たちもいますます怯えていた。
桃子の目の奥には宿る「悪」の気が、彼らに向かってじわじわと迫ってくるように感じられた。

「このままではいけない。私たちを解放して!」康介が叫んだが、桃子は無視するかのように静かに歩み寄ってきた。
その瞬間、彼女の手が伸び、晴雄の心に何かが侵入してくるように感じた。
彼は思わず叫び声をあげた。
周囲に強烈な暗闇が広がり、彼らの心に悪が入り込んでくる。

気がつくと、晴雄は目を閉じ、恐怖で震えていた。
そして、周囲には再び静寂が訪れた。
夢から覚めた彼にとって、何が現実で何が夢だったのかは分からなかった。
ただ一つ、彼の心に残っているのは、あの並木道に立つ少女の顔、彼の目の奥に宿った悪の影であった。

タイトルとURLをコピーしました