公園の片隅には、いつも静まり返ったトンネルがあった。
周囲の街は賑やかで、子どもたちの笑い声や車のクラクションが響き渡っているが、このトンネルだけは別の世界のように孤立していた。
夜になると、恐ろしい噂が飛び交い、人々はその場所を避けるようになる。
ある夜、公という名の少年がそのトンネルの存在を耳にした。
彼は友人たちと一緒に遊びに出かけていたが、その日の話題はトンネルの怪談だった。
「あのトンネルから出てくるという幽霊を見たやつがいるらしいぞ」と言う友人。
公は興味をそそられ、「実際に見てみよう!」と勇気を振り絞った。
翌日、彼は恐る恐る一人でトンネルへ向かった。
昼間でも薄暗いトンネルは、背筋を寒くさせる。
公は心臓の鼓動を感じながら、トンネルの入口に立った。
「誰もいない…」声を弱々しくつぶやく。
静まり返った空間に、自分の声だけが響く。
彼は深呼吸をし、トンネルの中へ入っていった。
壁にはびこった苔の匂いと、不気味な静寂が彼を包み込む。
なにかに引き寄せられるかのように進むと、突然、背後で「ま…」という声が聞こえた。
驚いて振り返るが、誰もいない。
公は恐怖に駆られ、足早に進んだ。
トンネルの奥深くに進むにつれ、冷たい空気が彼を包み込む。
その時、再び「ま…」という声が耳元でささやかれた。
今度は確かに、その声の主を感じる。
何かが彼の存在を見つめている。
公は急いでトンネルの出口へ向かうが、足がすくんでしまい、一歩も動けない。
恐怖が心を締め付けるなか、彼の目の前に現れたのは、見知らぬ少女だった。
彼女の肌は青白く、透き通るようだった。
長い髪はぼさぼさで、服は古びていて、どこか虚ろな目をしている。
「いっ…」少女は口を開いたが、言葉にならない。
その視線は、公をじっと見つめていた。
公は恐怖で震え、何を思ったかわからず「なにがしたいの?」と問いかけた。
少女は微笑み、やがて指差す先に何かが浮かび上がる。
それは黒い影のようなものが地面から這い上がってくる姿だった。
影は様々な形を取り、公の周りを取り囲んだ。
「逃げろ!」心の中で叫び、公は急いでトンネルから飛び出した。
外に出ると、光に包まれて自分の安堵感を感じる。
しかし、その時、背後から「ら…」という声が響いた。
振り返ると、少女はトンネルの入口に立っていた。
「帰ってこないで…」そのささやきは、彼の心に深く染み込んだ。
公はその恐怖から逃げ、街の方へと全速力で走り出した。
彼の心には、あの少女の顔と、トンネルから出るなという警告が焼きついていた。
それからというもの、公はそのトンネルを恐れ、二度と近づくことはなかった。
しかし、何かの拍子に耳元で「ま」「い」「も」「ら」という声が今も消えない。
彼の心には、あの幽霊の存在がずっと残り続けていた。