密かに語り継がれる呪の話がある。
舞台は、田舎の村。
ここには、古くから神聖視され、同時に怖れられる「れ」という場所がある。
村人たちはその名を口にすることすら憚られ、れに近づく者はみな、何かしらの代償を払わねばならないと信じていた。
ある日、一人の若者が村にやってきた。
彼の名は文。
文は、村人たちから聞いた噂を確かめるべく、れへと足を向けた。
誰もが語るその場所に足を踏み入れるのには、相応の理由があった。
それは、彼の身内が呪われたとされ、その解決策を求めてのことだった。
文がれに近づくと、周囲は薄暗い霧に包まれていた。
不気味な静けさが漂い、彼の心に不安が広がる。
彼は、大きな木の下に立つ祭壇を見つけた。
その場所は、かつて村人たちが神に祈りを捧げ、同時に呪いを解くための場でもあった。
しかし、時が経つにつれ、誰もこの場所に近づかなくなっていた。
文は、恐る恐る祭壇の前に跪いた。
「どうか、私の身内を助けてください」と呟いた。
彼の思いは強かったが、同時に呪いの存在を目の当たりにした彼は、自身の心にも何か不吉なものが宿っているのではないかと不安になった。
その瞬間、周囲の霧が薄れ、彼の目の前に現れたのは、かつて彼が村で聞いた伝説の存在、失われた神のような姿をした存在だった。
「私の名は密。このれの守り手であり、呪いをかける者でもある。」その存在は静かに告げた。
文は恐怖に心をかき乱されたが、その一方で自分の目的を思い出した。
「私の身内を助けてほしい。呪いを解いてくれ」と彼は再度懇願した。
しかし密は冷たく笑った。
「解放は容易い。しかし、あなた自身の中に潜む呪いを見つめなければ、未来もまた呪われたままだ。」
文は彼女の言葉の意味を理解できなかった。
「私の中に何が…?」と尋ねると、密は地面を指し示し、古い石の文様を明らかにした。
「己の過去を見つめよ。それが解放の鍵だ。」言葉が耳に残る中、文はひたすらに自分の過去を心に思い描いた。
彼の思い出は屈辱と後悔に満ちており、そのどれもが自らを呪縛していた。
彼は、自身の中に込められた怒りや悲しみ、そして失ったものへの執着に立ち向かう必要があった。
心の奥底からそれらを引き出し、自身を解放することが求められたのだ。
文は、自らの許せなかった過去の行いを思い出し、その苦しみを真正面から受け止める決心をした。
「私は、過去をもう一度受け入れ、それと向き合う」と力強く宣言した。
その瞬間、周囲の霧が揺らぎ、密の姿がかすかに崩れ始めた。
「それができるのであれば、あなたは呪いを解くことができる。しかし、その過程で何が起きるかは、あなた自身にかかっている。」
文は恐る恐る心の中の暗い影に目を向けた。
それは彼自身が直視することを拒んできた部分だった。
彼はそれを受け入れ、許し、やがては忘れることができるだろうか。
呪いの影は徐々に彼の心に浸透し、強く引き裂かれるような感覚が広がった。
しかし、心の奥から湧き上がる感情を抱きしめながら、彼はその空虚感に立ち向かった。
ついに彼の中にあった暗い影は姿を消し、光が差し込むような感覚に包まれた。
目を開けると、密は微笑んでいた。
「その瞬間、あなたの内に潜む呪いは解かれた。しかし、忘れてはならぬ。己の過去を受け入れることでのみ、あなたは未来を歩むことができる。望むならば、今後はあなたがれの守り手となるがよい。」
文は立ち上がり、何かが解放されたように感じた。
彼はもう一度、身内のために進むことができる。
れの霧は晴れ、彼は自らの道を見つけたのだった。
過去の呪いを受け入れることが、未来への希望をもたらすものになると信じて。