「まむしの祟り」

あれは、冬の寒い夜のことだった。
山田は友人の佐藤と一緒に、普段は閑静な村の外れにある古びた神社を訪れることにした。
二人は好奇心から、その神社にまつわる不気味な噂を確かめようと思ったのだ。

その神社には「まむしの祟り」という伝説があった。
昔、村人が貪欲に神社の神様を無視したことで、神様は怒り、まむしの姿で村を徘徊することになったという。
村人は皆、この神社を避けるようになり、今ではひっそりと佇んでいるだけだった。

外は冷え込んでいて、風が木々を揺らす音だけが響いていた。
神社に近づくにつれ、山田は妙な胸騒ぎを覚えたが、佐藤は平気な様子で、「大丈夫だよ、ただの話さ」と笑い飛ばした。

神社に着くと、ぼんやりとした灯りが一つ、鳥居の向こうに見えた。
山田は心臓がドキドキし、足がすくんだ。
「本当に入るのか?」と不安を隠しきれずに尋ねると、佐藤は「行こうよ、せっかく来たんだから!」と促した。

二人は中に入ると、静まり返った空間が広がっていた。
周囲は薄暗く、かすかな風の音が木々の葉を揺らし、まるで神社が生きているかのようだった。
山田はさらに不安が募るが、佐藤はそのまま先へ進んだ。

神社の奥に進むと、真ん中に古ぼけたお社がぽつんと立っていた。
その周囲には、まむしの像がいくつか置かれており、どうしても目を逸らすことができなかった。
気味が悪くなり、山田は「ここには何かいる…」と思った。

「おい、これ見てみろ」と佐藤の声が聞こえ、振り返ると彼は細い木の枝を指さしていた。
枝には、何かが結び付けられているように見えた。
それは、古い紙の束で、その中には「まむしの祟りに注意せよ」と書かれていた。

その瞬間、山田の背筋がぞくりとした。
彼は「帰ろう」と言い出したが、佐藤は頑として動かなかった。
彼はどうやら、その神秘的な力に惹かれているようだった。

「こんなところに長くいるのは危険だよ」と山田が再度訴えると、佐藤は不敵な笑みを浮かべた。
「何も起こらないって。祟りなんてただの迷信さ。」

だが、次の瞬間、風が急に強まり、周囲が暗くなった。
雲が空を覆い隠し、静けさが一瞬で不気味な静寂に変わった。
山田の心臓は早鐘のように鳴り始めた。
「早く出よう!」と叫んだが、佐藤は動こうとしない。

「見てみろ、何か来る!」佐藤が叫び、山田が振り返ると、薄暗い中から大きな影が迫ってきた。
まむしの姿をした恐ろしい存在が、二人を見つめていた。
その目はギラギラと光り、山田は恐怖で動けなくなってしまった。

影はゆっくりと近づいてきて、低い声でささやいた。
「祟りを知り、恐れをなして戻る者は、印を残さなければならぬ。さあ、印を残せ。」

山田は必死に逃げようとしたが、影に引き寄せられるようにして、体が動かい。
佐藤は目を見開いてその場に立ち尽くし、何が起こったのか理解できなかった。
影はさらに近づき、左右にまむしがうごめく様子が現れた。

「印を残せ!」影は叫んだ。

その瞬間、山田の脳裏に浮かんだのは、まむしのたくさんの目がこちらを見つめる姿だった。
彼は恐る恐るナイフを取り出し、自分の指先を切りつけた。
血が流れ、その血痕が地面に印を残していく。
すると、影は少しずつ後退していく。

「山田、逃げろ!」佐藤は叫んで力を振り絞って山田を引っぱった。
二人は全速力で神社を離れ、真っ暗な道を疾走した。

何とか村までたどり着いた時、二人は振り返ったが、神社や影はもう見えなかった。
しかし、山田の指の傷は未だに痛み続け、恐怖の余韻が消え去らなかった。

それ以来、山田はあの神社には近づかず、すべての話を素通りするようになった。
心の中に刻まれた印は、決して忘れることができなかった。

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