「たん屋の呪い」

「た」で始まる場所、それは名もない村にある古い「屋」、通称「たん屋」と呼ばれる廃屋だった。
この屋敷は、村の人々から忌み嫌われていた。
そこには、かつて美しい娘が住んでいたという。
彼女は、村の青年と恋に落ちたが、突然の事故でその恋は破局。
彼女は精神を病み、村人たちは彼女を恐れ、やがてこの屋敷も忘れ去られていった。
数年後、彼女の魂を鎮めるために村人たちは「呪」をかけることに決めた。
それは、この屋を訪れる者には不幸が訪れるというものだった。

ある夏の夜、中学生の佐藤健は友人たちと肝試しをすることに決めた。
村の伝説を聞いた彼は、その真実を確かめたかった。
友人たちは不安になったが、健の強引な提案に最終的には同意することにした。
彼らは懐中電灯を持ち、それぞれの恐怖を胸に、たん屋に向かった。
暗い道を進むうち、空気は重く、何かが彼らを睨みつけているような感覚があった。

ついにたん屋に到着し、健は扉を押し開けた。
古びた木のきしむ音が響き渡る。
中に入ると、視界は薄暗く、腐った匂いが鼻を刺激した。
彼らは不気味な空間に足を踏み入れると、さらに奥へと進んだ。
壁には奇妙な落書きと、かつての家族の写真が残っていた。
その中に、健は一枚の少女の写真を見つけた。
彼女はとても美しく、笑顔が印象的だったが、目には悲しみと怒りが宿っているように感じた。

友人たちが不安に顔を見合わせていると、突然、屋の中から「暴」のようなうめき声が聞こえてきた。
友人たちは恐れおののき、一斉に引き返そうとしたが、健は少女の写真を見つめたまま動かなかった。
彼女の目が、まるで自分を呼んでいるように感じたのだ。

その時、彼の意識が暗闇に引き込まれ、身体が動かなくなった。
「たん屋には誰も入ってはいけない」という呪が、彼の心に響いた。
彼は恐怖に包まれながらも、少女の苦しみを感じ取った。
彼女は愛する人を失い、自らの感情に翻弄され、永遠にここに留まることを強いられていたのだ。

「私を忘れないで…」という声が耳に届く。
健はその声に導かれ、少女の前にひざまずいた。
彼女の存在が少しずつ透明になり、周囲の空気が震え出す。
「あなたが私を思い出して、背負ってくれれば、解放されるかもしれない」という呪いの言葉が脳裏に焼き付く。

友人たちは健を連れ戻そうとしたが、彼の瞳は別世界を見ているようだった。
「私を助けて…」と声が次第に大きくなる。
その瞬間、健の体を襲った恐怖が爆発し、彼は叫んだ。
「俺はお前を忘れない、必ず助けてみせる!」

しかし、屋の中は更に暗くなり、彼の周りの影が暴れだした。
彼は恐れつつも少女の手を取ろうとしたが、触れられた瞬間、彼女の顔が歪み、周囲の壁が血で染まったかのように見えた。
友人たちは絶叫し、一斉に逃げ出したが、健はその場から離れられなかった。

一定の時間が過ぎ、やがて影たちは姿を消し、静寂が戻った。
しかし、健はもはや正気を保ってはいなかった。
彼の頭の中では、少女の呪いが渦巻き続けていたのだ。
友人たちは戻ろうとしたが、彼の姿は屋の中で消えていた。

以後、村では「たん屋」に近づく者はいなくなった。
その場所は再び誰にも知られない場所となり、健の名前も、そして少女の存在も、永遠にこの場所に留まり続けることとなった。

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