「ざしきわらしの道」

彼女の名前は美咲。
彼女は都心から離れた小さな村に引っ越してきたばかりだった。
村は静まり返っており、日が暮れると不気味な静寂が広がる。
美咲は村の奥にある神社の傍に住んでいた。
年齢も若く、初めての生活に胸を躍らせていたが、その背後には何か暗い影が潜んでいた。

ある日、美咲は村の道を散歩していると、ふと目に留まったのは、一本の古びた道だった。
その道は、村の外れに続いているようで、誰もが踏み込むことのない場所だった。
好奇心に駆られた美咲は、その道を進んでみることにした。
木々が生い茂り、道は次第に暗くなっていく。
道の先には、どこか不気味さを漂わせる薄暗い森が待ち受けていた。

道を進むうち、美咲は誰かの視線を感じるようになった。
振り返っても誰もいない。
それでも、背筋が凍るような不安が彼女を包み込む。
彼女はそのまま進み続けた。
途中、朽ち果てた看板に目をやると、「ざしきわらしの道」と書かれていた。
その文字に彼女の心は引き寄せられた。

美咲は夢中になって道を進んでいた。
やがて、道の先に小さな社が見えてきた。
そこには、古い神社の残骸と、その横に座る少女の姿があった。
彼女は長い髪をなびかせ、白い着物を身にまとっていた。
その姿はまるで、こちらを見つめているかのようだった。
美咲が近づくと、少女は微笑みながら言った。
「ようこそ、私を呼び覚ましてくれてありがとう。」

美咲は恐れを感じたが、同時に不思議な親近感を覚えた。
「あなたは誰?」美咲は問いかけた。
「私はざしきわらし、この道を守る者です」と少女は答える。
その声には、幼さと無垢さが混ざり合っていた。

少女は話を続けた。
「長い間、この道は忘れ去られ、人々は私を呼び覚ますこともなくなった。しかし、あなたがここに来てくれたことで、私は再び存在を感じることができた。」美咲はその言葉に心を揺さぶられた。
かつてこの道が人々に愛されていたことを理解するような気持ちになった。

その後、少女は美咲にこの道の秘密を教え始めた。
「ただ、ひとつだけ注意してほしいことがあります。この道を復活させるには、何かを失う覚悟が必要です。あなたが私を助けることで、村の人々は再び私を求めて、この道を通ることができる。しかし、あなた自身がこの道に結びつけられます…」美咲はその言葉の意味を理解できなかった。

それから数日後、美咲は村人たちにこの道とざしきわらしの話をしたが、彼らは信じなかった。
村の人々は冷たく彼女を見つめ、「そんな迷信にかまう時間はない」と言った。
彼女は失望感に包まれ、再びあの道を訪れた。

今度は心の奥から、少女の存在が求められるように感じていた。
美咲は道に足を踏み入れると、何かが彼女を迎え入れる感覚があった。
道に進むにつれ、周囲が徐々に薄暗くなり、再びあの少女が現れた。
彼女は微笑み、とても優しい声で言った。
「あなたが戻ってきてくれて嬉しい。あなたにしかできないことがあるの。」

その瞬間、美咲の心に不安が引っかかった。
少女の周囲に浮かぶ光が次第に強くなり、彼女の体が力を失っていくのを感じた。
「あなたが私を呼び醒ますことで、この道も復活し、私は再び人々の記憶に残ることができる。でも、あなたには代償がある…」

美咲は目の前の光景が崩れていくのを見つめながら、自らの運命を受け入れる覚悟を決めた。
少女の微笑みを見たその瞬間、美咲は自らの存在がこの道と結びついていることを理解した。
彼女は、この道を永遠に守る存在となる。
ざしきわらしの心は彼女の中に宿り、彼女自身もまた、この道の一部となる道を選んだのだった。

村人たちが気づく頃には、美咲の名前は土に埋もれ、彼女の存在は彼らにとっての伝説となって語り継がれていた。
しかし、その道を歩く者たちは、美咲の存在をどこかで感じ取る。
人々の心に宿るざしきわらしの微笑みが、今も道を守り続けている。

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