公園の奥にある古い遊具が、月明かりに照らされてぽっかりと浮かんでいた。
その公園は、地域の人々にとって馴染み深い場所。
しかし、夜になると誰も近づかなくなる、何か不気味な空気が漂っていた。
ある晩、彼氏と喧嘩をしたあかりは、気分転換に公園を散歩することにした。
彼女はいつも一人で悩みを抱えるタイプだが、今夜は少し違った。
暗い闇に包まれながら、心の中のもやもやを少しだけ忘れようと、静かな公園を歩いていた。
無心になれる時間が必要だったのだ。
公園のベンチに腰をかけ、夜空を見上げる。
自分の気持ちを整理しようとしていると、ふと、何かの気配を感じた。
あかりは振り返ったが、そこには何も見当たらない。
少し不安になりながらも、また空を見上げた。
しかし、すぐに異変に気づく。
あかりの周りの闇が、やけに濃く感じられたのだ。
公園の外から聞こえてくるはずの車の音、風の音、虫の声、それらがすべて消えたように静まり返っている。
何かが、彼女の近くにいるのかもしれないと、少し怯えを覚えた。
そのとき、古い滑り台の方から微かな声が聞こえた。
「あかり…」と。
その声は子供のように無邪気で、どこか幸せそうに響いた。
あかりは心臓が高鳴り、全身が硬直した。
冷や汗が背中を伝う。
「誰かいるの?!」恐る恐る問いかけてみたが、返事はない。
闇が一層濃くなり、まるで自分を包み込むように迫ってくる。
とうとう我慢できず立ち上がり、逃げるように公園を後にしようとした。
しかし、その瞬間、再び声がした。
「あかり…遊ぼうよ…」
その声に恐れを抱きながらも、気になって仕方がない。
なぜ、自分の名前を知っているのか。
そんな疑問を抱きつつも、あかりは不安定な気持ちで遊具の方へ向かう。
すると、滑り台の裏から小さなともだちが顔を覗かせた。
黒い影のような存在、子供の姿をしたそれは、肌が青白く、異様に細い手足を持っていた。
瞳は光を拒否するかのように真っ黒で、心の奥まで凍りつくような恐怖を覚えた。
「遊ぼうよ、あかり」と、再び彼女の名前を呼ぶ。
恐怖が頂点に達したとき、あかりは思い出した。
数週間前、この公園で行方不明になった子供のニュースを。
そんなことをするはずのない子供の姿をした存在が、彼女に近づいてきたのだ。
彼女の心の中はパニックになり、逃げることしか考えられなかった。
「ごめんなさい、遊べない!」と叫び、全速力で公園を飛び出そうとした瞬間、背後から囁く声がした。
「逃げないで…友達になろうよ…」
振り返ると、すでに影は消えていた。
静かな公園の入り口で、あかりは自分の心臓がまだバクバクと音を立てているのを感じながら、振り返ることができなかった。
彼女はただ逃げ切ることだけに集中した。
そして、名残惜しさの中に潜む恐怖を抱えながら、夜の闇に消えていった。
それ以来、あかりは公園に近づくことはなかったという。
あの声が、今も夜の公園で響いているのかもしれない。
闇が深ければ深いほど、仲間を求める存在が、その声を待ち続けているのだろう。